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国道20号と国道246号のあくなき戦い

 
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(初出 1993年)

なぜ20号と246号なのか

 20号は新宿通り・甲州街道、246号は青山通り・玉川通り・厚木街道を大体さしています。新宿通りと青山通りはそれぞれ都心から新宿、都心と渋谷を結ぶ幹線道路として、また広幅員の道路として知られます。甲州街道と246はともに環八通りまでは上に首都高をともなった広幅員の道路で、その先もそれぞれ広域幹線道路としての役割が大きく、甲州街道は五街道の一つであり、また246は準自動車専用道路的な役割を期待されています。この二つの国道は単にそれら自身の対決だけではなく、「新宿vs渋谷」、「首都高速3号線vs4号線」、「東名高速道路vs中央自動車道」、「『たとえ都下でも東京都』vs『田園都市の横浜都民』」……などといういろいろな要素がからんでの象徴的なにらみ合いとなっているのです。

国道20号

 桜田門交差点で国道1号より分岐、桜田門-半蔵門間は通称「内堀通り」と言われる部分と重なっており、都市計画上は環状1号線ということになります。半蔵門-新宿三丁目間は「新宿通り」と呼ばれるところですが、四谷四丁目-新宿四丁目間には新宿御苑トンネルというバイパスが通っています。国道20号の指定は複雑ですが、この部分は新宿通りとバイパスが両方指定されていて、明治通りの新宿三丁目-新宿四丁目間もまた20号になっています。ここから先は甲州街道と名を変えて八王子や甲府を通長野県塩尻市が終点となり、国道19号(中山道)に合流となります。なお、「甲州街道」の通称名はは新宿1丁目から新宿通りより分岐している御苑の脇を通る細い道路で、そこは20号に指定されていません。つまり、四谷四丁目-新宿四丁目は3ルートあり、そのうち20号は2ルート、甲州街道と呼ぶべき部分も2ルートあることになります。

 新宿通りはおおむね8車線の道路で、御苑トンネルは4車線、新宿駅南口の駅前は6車線ですがタクシーの客待ちや一般の送迎車で二重駐車も多く走行車線が4車線確保されるのも難しい渋滞地点となっています。新宿から高井戸まではおおむね8車線ですが、一部6車線の部分があります。

 沿道の状況を見てみると、皇居半蔵門から西へ下るあいだには麹町大通りと呼ばれる区間があり、四谷駅で中央線の上を通るかたちになり、上智大学があるほか、左手奥には外堀通りのむこうに迎賓館が見えます。新宿1・2丁目界隈はゲイバーが多いと言われますが、やがて新宿繁華街のにぎわいがあり、新宿追分・伊勢丹の交差点に達します。甲州街道に入ると右手に新宿新都心となり、一番ランドマークとして目立つのは東京ガスのビルです。その先は上の高速道路があるため暗くなりますが、建設中の第二国立劇場、明大和泉キャンパスなどがあります。

国道246号

 最高裁判所の前の三宅坂交差点で国道20号より分岐、渋谷までが青山通りと呼ばれる8車線の道路で、渋谷で六本木通りと(に)合流、そこからは上に首都高速3号線をともなった玉川通りと呼ばれる部分で、三軒茶屋・二子玉川園を経て多摩川をわたって、厚木(大山)街道と名を変えて沼津までのびています。沿道の施設については拙著『青山通りと六本木通りのあくなき戦い』に詳しく述べましたが赤坂のホテル群、赤坂御所、神宮外苑、青山学院など景観上かなり評価できるコースとなっています。渋谷以西は昭和女子大、駒沢大学などがあります。

 246号の指定としては20号ほど複雑ではなく、青山通りの全てと玉川通りの全てとなっています。むしろ注目すべきは渋谷警察署前交差点で、ここでは明らかに青山通りが六本木通りに合流しているにもかかわらず国道の指定は青山通りからゆるく右折するようになされています。

 246号は三軒茶屋で世田谷通りと分岐しています。世田谷通りは4車線で狭く渋滞しますが、町田まで続く道路として知られます。246号はこれを完全に吸収して渋谷方面へ向かいます。さらに淡島通りも道玄坂の上で吸収するかたちになります。

《国道20号と国道246号の比較》
国道番号 国道20号 国道246号
通称名 甲州街道 厚木(大山)街道
都心近くの名称 新宿通り、新宿御苑トンネル 青山通り、玉川通り
ごく一部の名称 明治通り、内堀通り
並行する鉄道 京王線(約100 m離れて並走) 新玉川線(地下を走る
車線数 都心部:おおむね8車線
環八内:おおむね8車線
都心部:おおむね8車線
環八内:おおむね6車線
併走する高速道路 首都高速4号新宿線
高井戸ICより中央自動車道
首都高速3号渋谷線
東京ICより東名高速道路
繁華街(23区) 四谷、新宿 赤坂、青山、渋谷、三軒茶屋、二子玉川
分流する道路 東八道路 淡島通り、世田谷通り


国道ネットワークの観点から

 東京の国道は若い番号から大きな番号が分岐する構造をとっており、曲がり角やカーブを考えずに(トポロジー的に)表すと図のようになります。実際には例えば1号線は五反田に至まで7回の曲がり角があり、名前も桜田通り・内堀通り・日比谷通り・永代通り・中央通りと変わります。

 こういう観点から考えると、246号のルーツは20号から分岐というなんとも屈辱的なものであるわけです。20号は246号を吸収して桜田門へと向かいます。

 ところで246号はネットワーク上二つの分岐する重要な道路があります。一つは第三京浜道路、玉川ICから横浜方面へ向かう6車線の高速道路です。「エッ、玉川ICは環八通り沿いじゃないの」と思いきや、環八通りは246号との交差点(瀬田)から玉川ICまでの短い区間だけ国道466号に指定されているのです。第三京浜もまた国道466号ですから、国道の世界では環八通りの瀬田-玉川IC間は第三京浜に他ならないわけです。

 もう一つは府中街道で、国道409号に指定を受けています。ところが409号というのは木更津のほうにもあります。これこそ東京湾横断道路の完成を期待している証拠で、横断道路の完成とともに両岸の国道409号は一つにつながり主要幹線となるわけです。

快適な甲州街道

 甲州街道(新宿-高井戸間)と玉川通りでは、走行性に関して6車線と8車線という決定的な差があります。甲州街道はあらゆる道路と立体交差したとても快適な道路となっています。

 立体交差の状況を見ると、玉川通りが自分で潜ったり上を通ったりしている部分は池尻と三軒茶屋、瀬田の3ヶ所です。全て片道2車線での交差点回避となります。三軒茶屋では合流という形になる上りだけが上を通る立体交差で、下りは分岐だからとタカをくくって何もつくっていないため、渋滞ポイントとなっています。瀬田では246号が下を潜る構造になっていますが、環八通りと交差するときに環八通りでないほうが立体になるのは246だけです。また246では右折レーンが確保されていないことが多く、片道3車線のうち中央よりの1車線が右折と直進の兼用で心持ち広くなっているというところばかりで、渋滞の原因になっています。

 一方甲州街道では初台のアンダーパスを始め中野通り、環七通り、井の頭通り全て自分が上や下に逃げる形での立体交差となっています。環七通りで環七以外が潜るのは甲州街道だけです。そしてそれらに全て2車線の側道がつくかたちになります。構造上はかなり優先された道路となっているわけです。さらに環七通りとは立体交差であるにもかかわらず環七通りの上馬方面からは右折禁止となっています。

 ところで、甲州街道では下りの松原陸橋で陸橋の本線を通るより側道を走ったほうが早いという状況になっています。松原陸橋は明大前駅付近で、・井の頭通りとの平面交差を避ける・首都高速永福ランプへの流出入をスムーズに裁くことを目的に1キロ以上に渡って本線と側道が分離されます。ところがこの本線が再び合流するところで渋滞し、信号3~4回待ちはしょっちゅうで、ひどいときは陸橋の入口まで渋滞がのびています。そういったときにも側道がわは信号1回待ち程度で通れてしまいます(ただしタマに側道もひどいときがあります)

 これは図のAの交差点で信号が・本線を流す・側道を流す・人を渡らせるの3段階になっているために本線の時間配分がかなり少なくなっているからです。ここは信号の前もあとも4車線なのですからそもそも・と・を分ける必要性すら疑問ですが、Aでは交差する道路は何もないのですから横断歩道をほんの100mも動かして、・' 本線を流す(AもBも青、A' 赤)・' 人を渡らせ、側道の車をBまで流してAB間にためる(A' のみ青)というような簡単な改良をすることでイッキに解決するものと思われます。

首都高速3号線vs首都高速4号線

 3号線は玉川通りの上を走る東名高速へつながる「渋谷線」と呼ばれる路線で、4号線は甲州街道の上を走り中央自動車道へとつながる「新宿線」と呼ばれる路線です。いずれも4車線の道路です。首都高速については拙著『首都高速の疑問点』でのべましたが、そこでも書いたように3号線には下り方向にのる入路が池尻ランプ一ヶ所しかないという欠陥があります。それどころか3号線には上下線の入出路を備えた完全なランプが一つもありません。4号線では外苑と永福が完全となっています。

 しかし3号線と4号線で決定的なのはむしろ渋滞の激しさです。4号線の上りはかなりひどく、環状線に合流する三宅坂ICを先頭に何十分もかかるような渋滞が連日発生しています。この原因は交通量の差ではなくて、首都高速のネットワーク上の欠陥のためです。そもそも首都高速は9本の放射線(片道2車線×9)が同じ2車線の外回り・内回りの都心環状線に流れ込むというムリがあるのですが、9本のうち3本は全て箱崎ICを介しての接続となります。その3本は成田・常磐・東北方面に向かう高速道路に接続するため、首都高速のクルマの流れは箱崎へ、箱崎へとなっているのです。ここで、箱崎に向かって3号線が環状線に合流する辺りは空いているのですが、既に3号線からたくさんのクルマが流れ込んだあとでの合流となる4号線はかなりきつい合流となり、5号線に至っては箱崎から伸びている渋滞で半分停止状態の環状線に1台ずつ交互の合流となってしまいます。そのため4号線の上りの外苑ランプはいつも閉鎖しているような状況です。

 ところで、20号と246は様々な共通点がありますが、高速道路との接続状況もその一つです。東名高速道路東京ICは環八通り沿いですが246と環八通りの交差点より北にズレています。これは首都高速3号線が瀬田の手前(用賀一丁目)から北にズレてゆくためです。20号線、首都高速4号線と中央自動車道高井戸ICも同じような関係にあります。ただしひとつ決定的に違うのは、3号線の高架下はほとんど遊んでいるような土地で狭い車道がついているだけなのに対し、4号線の下はともすれば時速100キロで走れる快適な車道がついていることです。

自動車道網構想

 東名高速道路は東京では最初に完成した高速自動車国道で、その東京側の入口もどうどう「東京インター」を名乗っています。ところで「高速道路」と名乗っている高速自動車国道は、東名と名神高速道路だけです。(首都高速道路は国道ではなく有料道路です)

 自動車道と高速道路の違いはその計画のルーツの違いにあります。高速道路は建設省による高速自動車道路調査、自動車道は田中清一の唱えた縦貫自動車道網構想に端を発します。後者は中央自動車道を軸にあばら骨のように枝線を出して海岸の都市を結ぶというものでした。この二つの構想がある中東海道か中央かという論議が行なわれましたが、結局1960年に中央道予定路線法と東海道幹線自動車国道建設法が同時に制定されました。そして東名がタッチの差で先に完成することになるのです。中央自動車道もはじめは「高速道路」を名乗っていましたが、衝突事故が多いのを「高速」という言葉のニュアンスが悪いとされて、その後の高速道路は全て自動車道と名づけられています。また、東名高速道路は東海自動車道とも呼ばれ、東名高速道路というのは通称ということになっています。さらにわが国初の高速道路である名神高速道路は、実は中央自動車道の一部であり、その通称名です。

 こう考えると一見東名の方が古いし「東京IC」を名乗ってエラいように感じられるものの、全国自動車道網の根幹は中央道であるわけだし、なんといっても一般に東名の続きのように思われている名神高速が実は中央道の一部だというのは衝撃です。東名高速の終末は中央道に吸収されるという屈辱であったわけです。

 しかし、日本の大動脈は東名高速道路であることは疑いのないことで、東京側で中央道4車線に対し東名6車線というのもまた差をつけているところです。それでもなんかスッキリしない東名の勝利といったところでしょうか。

メインストリートの座は

 東京という都市はメインストリートがはっきりしていないという特徴があります。パリならシャンゼリゼ、ロンドンならリージェントストリート、香港ならネイザンロードなどが賑わっていますが、東京ではさしずめ中央通りといったところでしょう。戦前昭和通りにはグリーンベルトがあったと聞きますが、戦後は全て撤去され幹線道路との立体交差が図られました。また景観上は日比谷通り(国道1号)の日比谷-大手町間のお濠沿いに、明治生命ビルや帝劇などがたちならび定評のある場所となっています。

 青山通りには赤坂御所がある関係もあって、度々パレードが行なわれます。最近では86年のチャールズ皇太子夫妻、90年の秋篠宮さま御結婚や同じく即位の礼のパレードが、青山通りにて行なわれました。一方で新宿通りでは、沿道の陳情もあって皇太子さまの御結婚のパレードが行なわれました。古くは美智子さまの御結婚も新宿通りだったようです。しかし、どうして皇室の方につける敬称は「さま」と平仮名で書くのでしょうか。

軍配はどちらに?

 国道246号は246の愛称で親しまれ、あるガイドブックには
“東京でもっとも有名な国道、246号”とまで書かれています。しかし国道の番号の若さもさることながら、五街道の一つに数えられた甲州街道、即ち国道20号は由緒も正しく、東京の東西の大動脈としてその果たす役割の大きさは相当のものとなっています。そして今や新都心にまで格上げされた新宿を都心と結んでいるという強みもあります。端的に言ってしまうなら、ファッション性やイメージとしては246は抜群のものをもっているとはいえ、道路の格の面はもちろん、広さ・走行性・重要性からいって国道20号の勝利といってよいのではないでしょうか。

 読者の皆さんは、どのようにお考えになりますか。

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